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Twitterが劣悪な言論を生む

数週間前、発覚した「大阪・橋下市長の職員アンケート問題」に関して、
2月11日、著名人のSさん(現在フォロワー1万人以上)が以下のようなツイートをしていらっしゃいました。

大阪市職員への強制アンケートの原文を読んで戦慄した。これは尋常じゃない…。マッカーシーの赤狩りと同じ。背筋が凍る。これを読んでも橋下徹を支持する人を僕は軽蔑する。気持ち悪くなること必死だけど必読です。http://bit.ly/wN5zcC(原文ママ)


このツイートを目にして、私は非常に驚きました。
Sさんは、彼の本職で優れた功績を残され、社会的に非常に評価されている方なのですが、
そんな方でさえ、このような冷静さを欠く物の言い方をすることに、愕然としたのです。

「職員アンケート問題」に関しては、
皆さん、多様な意見がおありだと思いますし、法の専門家の間でも評価の分かれる問題ですので、
この稿で取り上げることは避けます。


ここでアンケート問題よりも論じたいのは、
「Sさんのそれのような、劣悪なツイートが世の中で一定の支持を得ている状況こそ恐ろしい
という事なのです。

具体的に、Sさんの上記ツイートに関しては、パッと見ても二つの疑問点があります。

まず、①「マッカーシーの赤狩りと同じ。」と断定している点。
確かに、橋下市長のアンケートには憲法違反の「懸念」があります。
「懸念」があるという点、よく調査・議論しなければならないという点についてならば、
おそらく大多数が同意すると予測できます。

しかし、専門家でも評価の分かれるアンケートをなぜ「赤狩り」と断定できるのか、不明なのです。
しかも「アンケートのどの点が過去の赤狩りと共通しているのか」という根拠を一切示していません。
Sさんのブログ・ツイートなどを拝見しても、厳密に検証すらしてないのではないか(少なくとも
ツイートした2月11日時点において)、と感じます。
(ここで言われている「赤狩り」とは実際には何なのか、少し後に解説致します。)

さらに検討を加えれば、
上記ツイートは一政治家(=橋下市長)に対する、刑法の「名誉毀損罪」に該当する可能性さえあります。

(名誉毀損)
第230条① 公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、
         三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。


もちろん政治家に対する報道・批判の事実適示は日常多くのマスコミがするものですし、
「表現の自由」は最大限尊重されなければならないものですので、
法は、「真実性の証明」があれば処罰することはないと規定しています。以下がその条文です。

(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の2① 前条(=第230条)第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が
           専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの
           証明があったときは、これを罰しない。
     同条③ 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、
           事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。


しかしこれだけでは、「真実性の証明」に失敗したら、常に処罰されることになりかねません。
そこでこれに関して、さらに以下の「最高裁判例」が基準を明示しています。

最高裁判所第一小法廷・決定(平成22年3月15日)
「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が適示した事実を
真実であると誤信したことにつき、確実な資料、根拠に照らし相当な理由があったかどうかを慎重に審理検討したうえ
刑法230条の2第1項の免責があるかどうかを判断すべき」


「確実な資料、根拠」。これが大事なのです。
つまり、真実なのだと「誤信」してしまっても、保護されることがあるということですね。

確実な資料、根拠あり→表現の自由の正当な行使とみなされる
確実な資料、根拠なし→「名誉毀損罪」に該当!違法行為として処罰される


私は、インターネットという言論空間で、
なぜ確実な資料・根拠もない「名誉毀損」が至る所で繰り返されているのか、
なぜそれが間違ったことだと指摘もされず、改善して行かないのか、
疑問に思うのです。


もう一つ、②「これを読んでも橋下徹を支持する人を僕は軽蔑する。」と、
世の中の橋下市長の支持者、即ち「(特定の)国民・市民」を誹謗中傷している点。
アンケートに関して批判するならまだしも、(特定の)国民・市民に対して、
その政策の違法性の根拠を説得的に論証することなく、むしろ「軽蔑する」と断じることこそ尋常ではありません。

②については、さらに次のような問題点があります。
Twitterは、ウェブ上で誰もが自由に発言を行うことのできる「公共の場」です。
その「公共の場」で、橋下市長の政策を批判するならともかく、
橋下市長の支持者たる国民・市民を侮蔑するということは、
Sさんのツイートを見たフォロワーや読み手たちに対して、
事実上、「お前ら、橋下シンパじゃないよな!?そんなヤツがいたら見下してやる!」
「恫喝」していることにもなります(自覚の有無は不明ですが)。

これは、「思想信条の自由」「表現の自由」に対するれっきとした「攻撃」です。
「確実な資料、根拠」に基づく、生産的・建設的な反論や批判とは全く異なります。
(上記ツイートが明らかに正しいと思えるような理由・根拠が示されていれば別ですが、
 アンケートの件は法の専門家でも評価の分かれる問題であり、ツイートの時点はおろか現時点でも、
 容易に「決めつけ」られるものではありません。無根拠の「誹謗中傷」の域を出ないものです。)

そして、このような「攻撃」の効果は、以下のようなものになるでしょう。

・フォロワーや読み手が軽蔑されまいと、闇雲にSさんの偏った主張に迎合的な態度を取る(大衆扇動)
・フォロワーや読み手が面倒に巻き込まれまいと、各自の主張を止めたり隠したりする(言論の抑圧)


よって、Sさんの上記ツイートについて私の考える問題点はこうです。

根拠や理由(プラスそれらを裏付ける事実・データ・証拠)を明示せず、「決めつけ」た主張で他人の名誉を害している
・その主張を恫喝とともに行う事で、自らの主張を他人に押し付け、意見の違う者を侮辱する効果を(結果的に)生む
・このように振る舞う事によって「公共の場」の言論を歪めたものにする


ここまでの議論を前提とすると、とても不思議なことが分かるように、私には思います。
「大衆扇動」も「(特定の)言論の抑圧」も、まさに橋下市長に対する批判の一要素だからです。

断っておきますが、私は橋下市長の肩を持つ気はさらさらありません。
むしろ市長のやり方は、「劣悪なポピュリズム」に類するとさえ考えています。

ここで申し上げたいのは、橋下市長と同じくらい、
実はSさんはじめ「反橋下派」のツイートや言動には、劣悪な「大衆扇動」の効果が伴っている、
という事。
これが私の結論なのです。

では、もう少し、参考としてSさんの他のツイートも例に挙げてみます。

「あなたは組合の酷さを知らない。それを正常化するためには荒療治が必要だ」という人も多い。しかし日本は人ではなく法が支配する法治国家。組合に問題があるなら、あくまで合法的に対処すべきである。その原則を軽視したとき、法ではなく人が社会を支配し始める。つまり橋下徹である。


法ではなく人(=橋下徹)による支配。実は橋下徹のねらいは、よりよい社会を作ることなどではなく、そこにこそあるのだということを、今回の強制アンケートのやり方で確信した。人々の現状に対する不満や憤りを利用して、日本の支配者になることを狙っている。それがこの一連の事態の本質である。


「橋下徹はよりよい社会を目指すしているのではない。日本の支配者になることを狙っている」などと書くと、荒唐無稽に聞こえると思う。僕も書きながら思ったくらいである。しかし、その荒唐無稽なことが今、実際に起きようとしている。火が大阪にあるうちに消しておかないと、日本中が大火事になる。


僕が今回の事件をとりわけ重大視しているのは、「社会悪の膿を出し切るためには、人権侵害もやむを得ない」という橋下徹による宣言に、大手マスコミと少なからぬ国民が同意しているようにみえるからである。その合意から魔女狩りや強制収容所への道のりは、人々が想像するよりもずっと短い。


僕が橋下徹をヒトラー等に喩えるのを大げさだと指摘する声も聞く。たかが一地方自治体の労組弾圧じゃないかという人もいる。しかし、一本のマッチの火でも、燃え移ることを妨げなければ、巨大な都市をも焼き尽くす。焼け野原になってから気づくのでは遅い。


このツイート群のどこに、「確実な資料、根拠」が伺えるでしょうか?
私には立派な「誹謗中傷」にしか見えません。

しかし、これはSさんだけがやっていることでは全くなく、
むしろそこら中で多数の人間が類似の劣悪な発言・ツイートを繰り返しているのです。
(場合によっては、処罰されることさえあり得る行為なのに、です。)


ここで冒頭に戻って「赤狩り」とは本来何なのか、確認することが有意義だと思いますので、
少しばかり述べさせて頂きます。
わざわざ長々と確認するのには、理由があります。
私が申し上げたい結論を先に言えば、次のようになります。

橋下市長を痛烈に誹謗中傷する反橋下派たちの言動に、同じく「赤狩り」との類似点が見出せる
(もちろん自覚の有無は不明)


「赤狩り」のあらましを確認することで、この上記の命題を論証したいのです。

赤狩り(あかがり、英: red scare)とは、政府が国内の共産党員およびその同調者を、公職を代表とする職などから追放し、社会的地位を貶めること。第二次世界大戦後の冷戦を背景に、主にアメリカの影響が強い西側諸国で行われた。                                                                                   (Wikipediaより)


「赤狩り」は主に米国において、「共産主義者の追放」を大義名分として行われました。

同じく「マッカーシズム」について、参考程度にWikipediaにはこう記述があります。

マッカーシズムは、第二次世界大戦後の冷戦初期、1948年頃より1950年代前半にかけて行われたアメリカにおける共産党員、および共産党シンパと見られる人々の排除の動きを指す。


共産党シンパ“とみられる”人々、これがポイントです。
人間を外見から判断しても、その人が共産主義者であるかどうかなど、当たり前ですがわかりません。
心の中は見通せないからです。

そこで行われたことは、「疑わしきは罰してしまえ」という恐るべき処罰の繰り返しでした。
マッカーシーらに「共産主義者」や「ソ連のスパイ」、もしくは「その同調者」だと糾弾されたのは、
政府関係者や陸軍関係者だけでなく、ハリウッドの芸能関係者や映画監督、作家、さらにはカナダ人や
イギリス人、日本人などの外国人にまで及びます。

また、当時ハリウッドで売られた『レッドチャンネル』という本では、共産党のシンパと思われる人物の名前が、
本人に確認・反論する機会も与えないままに、勝手にリスト化されていました。
当然、この本に名前が載ることは、そのまま業界から追放されることを意味していたのです。
(他にも、この件では「ハリウッド・テン」のメンバーが有名です。)

さらに信じ難いことですが、末期には政界の権力闘争において政敵を蹴落とすために用いる「謀略」として、
これらの手法が使われるようになりました。
真偽はさておき「奴は赤だ!」と断ずれば、それだけで政敵に選挙で勝てたのです。

このように見れば、「赤狩り」の問題点は次のように言えます。

何らの確実な証拠(資料・根拠)も明示せず、「決めつけ」「レッテル貼り」によって、
人を社会的に追放し、または社会的地位をはく奪し、さらには刑罰を科すことすら容認する。
そうすることによって、思想信条の自由・表現の自由はもとより、
個人の尊厳そのものを踏みにじり、重大な人権侵害をもたらす。
また、表現の自由を侵害することによって、民主主義のプロセスを破壊し、
人権侵害の危険を生じさせる、恣意的・反合理的な意思決定を容認する環境を生む。


繰り返し断りを入れますが、私は橋下市長を持ち上げるつもりは毛頭ありません。
むしろ橋下市長に対しても、人権への配慮の足りなさや大衆扇動の疑いを拭い去ることはできない、
と私が考えている事をはっきりと明示しておきます。


しかし、だからといって、「あいつは悪の疑いがある」ということだけで物事を判断し、
「公共の場」で確実な資料、根拠も示さず、他人の名誉を傷つける行為、
そして、言論に触れる多くの周囲の人間たちを「恫喝」「攻撃」するような行為を、
私は決して容認することが出来ません。


Sさんのツイート、そしてそれに類する多数の者が繰り返す類似の劣悪なツイートには、
「赤狩り」の問題点を彷彿とさせる「決めつけ」「レッテル貼り」が頻繁に登場します。

言ってみれば、各人が「(規模の小さい)赤狩り」を至る所でやっている、と言っても過言ではありません。
(無自覚に、と付け加えた方がいいかもしれませんが。)

私は、上記ツイートのようなものが「公共の場」の言論を歪めることの方が、
我々にとってはるかに有害である、と考えます。
橋下政治にも問題点はありますが、“優先順位”からして低いのです。

(A)「公共の場」の言論が歪められ、民主主義のプロセスが破壊されること(=民主主義で是正不可
(B)現時点での橋下政治に関する問題点・疑わしい点(=民主主義で是正可能)


(A)の方が、(B)よりもはるかに深刻な被害をもたらす。


当然ですが、悪い政治家を追い落とすことさえ、我々は民主主義のプロセスに則らなければなりません。
たとえどんな正当な目的があろうと、他人の思想信条の自由・表現の自由、そして民主主義のプロセスを破壊することは、
誰にも許されないのです。

(これを許す事こそ、我々がファシズムの入口に立ってしまうことを意味します。)

もう一つ、断りを入れておきますが、
私はSさんを含めた、ある特定のだれかの「人格」を攻撃するつもりは一切ありません。
個人的に言えば、Sさんの本職の実績に対して、私は心から素晴らしいと思っていますし、
大変尊敬しています。
そしてさらに直感では、おそらく上記のような「劣悪なツイート」も、
Sさんの熱意ある「危機感」から生まれる、善意のなせる行動であると推測しております。

しかし、たとえ善意から生まれたとしても、単なる誹謗中傷のような“劣悪な言論”を看過するわけには行きません。
(はからずも、「問題があるなら、あくまで合法的に対処すべき」とSさんも上で引用したツイートの中でおっしゃっています。)
むしろ「善意」や「信念」から生まれた言動の方が、かえって(予期せぬ)厄介な事態に陥る結果に至るということも、十分想定されるのです。
(まさに歪んだ「信念」を持ったヒトラーのように。)

私は、「橋下市長」も「反橋下派」も、どの特定の個人も攻撃するつもりはありません。
ただ、「マッカーシズム」や「(規模の小さい)赤狩り」を叩き潰したいのです。

Sさん含め、本当に何かを主張し、社会を良くしていきたいとのお気持ちがある方ならば、
せめて「決めつけ」は止め、「根拠」の伴う有意義な言論を発信して頂きたいだけです。

なぜなら、Sさんのツイートを借りて申し上げれば、
“劣悪な言論”から「魔女狩りや強制収容所への道のりは、人々が想像するよりもずっと短い」からです。

そして願わくば、Twitter含めインターネットを、有益な情報や言論の溢れるソーシャル空間にして欲しいと望みます。

<主要参考リンク>
・みやきち日記「マツダ先生(仮名)の思い出、あるいは議論の仕方を習ったことのない人はやっかいだということ」
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20120117/p1
・マッカーシズムと赤狩り http://www3.ocn.ne.jp/~zip2000/red-purge.htm

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  1. 2012/03/06(火) 10:43:31|
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